大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和43年(ヨ)579号 判決

申請人

(デンマーク国)

アクチーセルスカベット・レゴ・システム・ビルンド

代理人

中松澗之助

能村幸雄

中村稔

被申請人

任天堂株式会社

代理人

馬瀬文夫

杉島勇

杉島元

松本重敏

主文

申請人の本件仮処分申請を却下する。

訴訟費用は申請人の負担とする。

事実《省略》

理由

一申請人が組立ブロック玩具に関し昭和三七年一二月二二日登録第五八〇二二六号実用新案権(本件実用新案)を有していること、本件実用新案の登録請求の範囲が別紙第一実用新案公報の該当欄に記載されているとおりであり、その構成要件が申請人主張のとおりであること、本件実用新案の登録に至るまでの経過が申請人の主張するとおりであること、被申請人が別紙第一ないし第三目標に記載する組立ブロック玩具を製造及び販売していること、被申請人製品が前述本件実用新案の(い)ないし(は)の構成要件を充足していること、以上の各事実は当事者間に争いがない。

二しかして、被申請人は被申請人製品が本件実用新案の権利範囲に属するとの申請人の主張を否認し、被申請人において同じ組立ブロック玩具に関する昭和四五年三月三一日登録第八九七四九〇号実用新案権(被申請人実用新案)の実用新案権者である申請外松林高及び同松林博三からその専用実施権の設定登録を受くべき約旨のもとに右実用新案出願前よりその承諾を得て実施事業を営んでいるのであつて、別紙第一ないし第三目録記載の被申請人製品はこれの実施品であるから、申請人より本件実用新案権の侵害ありとして差止請求を受ける理由はないと主張している。

右主張事実のうち、申請外松林両名が主張の如き実用新案の登録を受けたこと、被申請人第一製品が右実用新案の実施品であることは申請人において認めるところであり、被申請人が右松林両名との間の主張の如き専用実施の契約に基いてこれを実施してきたことは申請人において明らかに争わないところである。

被申請人の実施する製品が申請人の本件実用新案に抵触し、権利を侵害するものであるか否かは当面判断を要するところであるが、被申請人が別個の後願の実用新案の専用実施権に基づき製造販売している事実を看過し得ない。先願の実用新案と抵触する後願の考案が登録されることは、特許庁審査官の過誤による場合を除いてはあり得ない道理で、その審査につき特別の権限を有する専門機関の判定の結果は尊重すべく、抵触するものでないとしたその審査結果は一応正当と推認すべきであるが、仮りにそうでないとしても、実用新案法第三七条第一項第一号による実用新案無効審判により無効の審決がなされて確定しない限りは後願実用新案権を否定することができず、先願の実用新案権を有していることの故に被申請人実用新案の効力を制限し、その権利行使を禁止することは許されない。したがつて被申請人第二、第三製品が被申請人実用新案の実施品と云えるか否かにつき考察する。

三〈証拠〉に基づいて考察すれば、被申請人実用新案は次の構成要件からなるものと解される。

(イ)  天床と四個の側壁を有する中空体の合成樹脂製の矩形ブロックからなること。

(ロ)  天床の外面に二列に等間隔に突設された主突起を設けること。

(ハ)  ブロックの内室の天床の内面に、半円壁と両側の開口円壁を互い違いに位置せしめ直線壁で一連に連結した一体的な嵌合壁である副突起を設けること。

(ニ)  右副突起は主突起と各一点のみで接触するように設けられていること。

右構成要件のうち(ハ)及び(ニ)が被申請人実用新案の副突起の形状を規定したものと解されるから、右各要件に基いて検討をすすめる。右各要件によれば、副突起はブロックの内室の天床の内面に一個のみ設けられ、それは半円壁(G)と開口壁(Q)と直線壁(L)とを一体的に連結したものであり、この副突起が主突起と各一点のみで接触するように設けられている必要があり、その上G、Q、Lの連結の態様については「Gと両側のQを互い違いに位置せしめLで一連に連結した」ものでなければならない。

そこで、問題は右「Gと両側のQを互い違いに位置せしめ」の意味を解明することに尽きるが、まずQ又はGの開口部の向きについて考える。〈証拠〉によれば、かりにQとそれに隣接するG、或は相隣接するG、Gのそれぞれの開口部の向きを同じにしてLをもつて連結した場合、二つのブロックを結合させたときに全く副突起に接触しない主突起と二点で副突起に接触する主突起とが生じることが明らかである。これに反して、相隣接するQとG或はGとGの開口部の向きを異にして連結すれば、各主突起は副突起と少なくとも一点で接触するので、被申請人実用新案の副突起は相隣接するQ又はGの開口部の向きを互い違いにすることが必要であることが分る。次に、QとGの配列について考える。いまかりに開口部の向きが互い違いになつているQ、GQ、G、Qという配列の副突起にした場合、二つのブロックを結合させたときに中間部のQの部分についてのみ二点で副突起に接触する主突起が生じることが明らかであるので、中間部(両端以外の部分)にQを配置するのは誤りであることが分る。それ故中間部のQの代りにGを配置すると、主突起は各一点で副突起に接触することになり、はじめて前記要件を充足する。

以上の検討により「Gと両側のQを互い違いに位置せしめ」というのは、要するに矩形ブロックの両端にはQを、その中間部には単数又は複数のGを配置し、かつそのG又はQの開口部の向きは互い違いになつていることを要するという意味になる。

ところで、いうまでもなく被申請人第二及び第三製品は、その副突起につき、両端にQを配置し、その中間に九個又は一七個のGを配置し、その開口部の向きが互い違いになるように構成されているが、これは右に述べた被申請人実用新案の構成要件を完全に充足するものであることが明らかであつて、結局被申請人の第一ないし第三製品はすべて被申請人実用新案の実施品ということになる。

四申請人は、さらに被申請人実用新案は本件実用新案を利用するいわゆる利用考案になるから、申請人の通常実施権の許諾を得るか、特許庁長官の裁定を得なければ実施できないと主張する。しかしながら、両者の間には右のような関係も認められない。すなわち、利用考案とは先行実用新案の構成要件に新たな技術的要素を加えたものをいうのであるから、利用考案は先行実用新案の構成要件全部を含み、これをそのまま利用したものでなければならないと解されるところ、被申請人実用新案の構成要件は前述のとおりであつて、これを申請人の主張する本件実用新案の構成要件と対比して見ても、被申請人実用新案は本件実用新案をそつくり利用した上、さらに何ものかを付加したものとは到底いうことはできないから、両者に利用関係はないものというべきである。

五以上のとおりであるとすれば、被申請人製品は申請人実用新案を侵害しているものとは云えず、申請人は被申請人製品の製造販売の停止又は予防を請求する権利を有しないものというべく、申請人の本件仮処分申請はその被保全権利を欠くのでこれを却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(林義雄 蒲原範明 山田敦生)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例